調節眼内レンズの開発
Challenge the Surgical Correction of Presbyopia
我々は未だ誰も完全には成功した者がいない目の中で動いて 遠近調節力を発揮する眼内レンズの開発している。 下の写真はその1つで、開発は臨床試験の直前まで進んでいる。
老眼矯正の今ある課題
人の焦点調節、老視と白内障
- 人の焦点調節は、毛様体筋の動きがチン小帯を介して水晶体に伝わり、水晶体の前面の曲率を変えて行われる。
- 遠方視の時、毛様体筋は自然状態で引っ込んでおり、チン小帯、水晶体膜は引っぱられて水晶体の前面はフラ ットになる。
- 近方視で焦節努力すると毛様体筋は収縮して突出し、チン小帯/水晶体膜は緊張が低下し、水晶 体は本来もつ復元力(バネ力)で元の形状に戻り水晶体の前面が突出する。
- 水晶体は表面の膜とその中身でできており、水晶体の中身が硬くなり動かなくなるのが老視で、中身が濁り見え にくくなるのが白内障である。
白内障手術、一般の眼内レンズと多焦点眼内レンズ
白内障は手術で治すことができる。
- 手術は、水晶体膜に円形切開を作り、濁って硬くなった水晶体の中身を超 音波で吸引除去し、水晶体膜の中に眼内レンズを挿入する。
- しかし、一般の眼内レンズは単焦点レンズで老視の矯正効果はない。老視を治そうと多焦点眼内レンズが使われるが、
- これは光を遠と近に分割して目の中に取り入れるもので、老視の矯正は不十分で、光の輪が見える暗い所でくっきり見えないといった副作用もあり、単焦点レンズに摘出交換する人もおり、眼科関係者の間で問題となっている。
ヒンジ付きで光学部が前後移動する調節眼内レンズ
- 理論的に完全な老視矯正がおこなえるものに、毛様体筋の力で水晶体膜の中で光学部が前後移動して焦点調 節を行う調節眼内レンズがある。
- 米国 FDA 承認で米国で販売されている調節眼内レンズで、ヒンジの付いた 2 つのプレート状支持部をもっ ているものがある。
- 上の写真は、この眼内レンズの焦点調節時の超音波断層撮影であるが、レンズ光学部はほとんど動いてい ない。
- 我々は、水晶体膜を膨らませる垂直方向のバネを持たないこの眼内レンズは、毛様体筋/チン小帯/水晶体 膜の動きをとらえられないため水晶体膜の中で動くのは難しいと考えている。
スプリング付きで光学部が前後移動する調節眼内レンズ
- かつてCEマークを取得した調節眼内レンズで、前方が+32Dの凸レンズ、後方が屈折状態に合わせた凹レン ズの2枚の光学部が垂直方向のバネで繋がられているものがある。
- この2枚は眼内レンズの超音波断層撮影であるが、焦点調節時に0.3㎜だけ光学部が動いている。
従来の調節眼内レンズの持つ課題
- 毛様体筋の動きによる水晶体膜の動きは0.3㎜程度と小さく、単純に水晶体膜の動きに追従するだけでは理 論的に0.3㎜程度のレンズの動きしか得られず、小さな焦点調節力しか得られない。
- 調節眼内レンズは、長期的には水晶体膜の癒着とそれに続く水晶体膜の硬化が起こり、レンズは動かなく なるというのが定説である。
- ほとんどの調節眼内レンズは、そのサイズが大きく、大きな切開が必要で水晶体膜への挿入に困難を伴う など挿入の安全性・操作性に問題がある。
我々が提案する解決策(パート1)
調節眼内レンズが成功する為の課題は3つあり、
- 1つ目は水晶体膜赤道部の癒着と膜の硬化を防ぐ事で、 Soft-Bagで解決する。
- 2つ目は水晶体膜の小さな動きをレンズ光学部の大きな動きに変換する増幅機能をもつ事で、Simple-move Lensで解決する。
- 3つ目は小切開創から水晶体膜内に安全容易に挿入する事で、 Soft-BagとSMLを別々に水晶体膜の中に挿 し、連結させる事で解決する。
- 人の焦点調節は、毛様体筋の動きがチン小帯を介して水晶体に伝わり、水晶体の前面の曲率を変えて行われる。
- 遠方視の時、毛様体筋は自然状態で引っ込んでおり、チン小帯、水晶体膜は引っぱられて水晶体の前面はフラ ットになる。
- 近方視で焦節努力すると毛様体筋は収縮して突出し、チン小帯/水晶体膜は緊張が低下し、水晶 体は本来もつ復元力(バネ力)で元の形状に戻り水晶体の前面が突出する。
- 水晶体は表面の膜とその中身でできており、水晶体の中身が硬くなり動かなくなるのが老視で、中身が濁り見え にくくなるのが白内障である。
Soft-Bag の構造と機能
- Soft-Bag は、厚み0.1mmのシリコン膜 3D 構造体で、水晶体膜全体を膨らませる Bag 構造と、その外周に 水晶体赤道部を膨らませる Tube 構造から成る。
- また Soft-Bag は、超短パルスレーザーを使った 3D 曲面切断加工によって高度の可動性と変形性をもつ。 さらに、MPC ポリマーによる表面処理で高度の生体適合性と潤滑性をもつ。
- これにより、Soft-Bag は、水晶体のサイズや調節による変形に合わせて水晶体膜をソフトに拡張して、 術後の水晶体膜赤道部の癒着とそれに続く膜の硬化を防止し、長期の水晶体膜の可動性を維持する。
また Soft-Bag は、水晶体膜の動きを効率よく SML に伝える。
- Simple-move Lens (SML)は、シリコン製のフレーム部とアクリル性の光学部が接合されて作られる 3D 構造
- 体で、外周のリングから内前方に向かって 6 本のアーチ状のアームが出て、その先端にレンズ光学部が 接続している。
- アームの頂点外側に力を受けると、アームが根元のリングを支点に内後方回転する。 このアームの内後方への動きがレンズ光学部の後方への動きに転換されてレンズ光学部が大きく動く。
- 構造解析では、アームの 0.3 ㎜の動きが 0.87 ㎜のレンズ光学部の動きに変換され、2.9 倍の増幅機能を 示す。
Soft-Bag・SML 連結体の焦点調節機能
焦点調節時の Soft-Bag・SML 連結体の動き
- SML の増幅機能によりアームの小さな動き(0.3 ㎜程 度)がレンズ光学部の大きな後方への動き(0.87 ㎜程度)に転換される。
- 近方視で調節努力すると、毛様体筋は収縮して内側へ突出する。チン小帯と水晶体膜は緩んで緊張が低下 し、アームはその復元力 (バネ力)により元の形状に戻り、レンズ光学部は 0.87 ㎜程度前方移動する。
- 近方視で調節努力すると、毛様体筋は収縮して内側へ突出する。チン小帯と水晶体膜は緩んで緊張が低下 し、アームはその復元力 (バネ力)により元の形状に戻り、レンズ光学部は 0.87 ㎜程度前方移動する。
Soft-Bag ・SML 連結体の焦点調節力
- Soft-Bag の後方リングには、屈折に合わせた-18D、-12D、-6D の凹レンズの1つが付いており、SML 光学部 は+28D~+33D の凸レンズを使う。強い凸レンズが大きく動いて、Soft-Bag・SML 連結体は、単焦点レンズ
- の前後移動でありながら約 2D (光学部が+28D で 0.87 ㎜動く時)の比較的大きな焦点調節力を発揮する。
Soft-Bag ・Simple-move Lens 連結体の成果
挿入の操作性・安全性の検証
- Soft-Bag を 3.0 ㎜切開用のインジェクターにセットして、生体の兎の水晶体膜内に挿入し、次に、SML を同じインジェク
- ターで Soft-Bag の中に挿入した。これらの挿入と連結は安全・容易に行われた。
水晶体膜赤道部の癒着と膜の硬化防止の検証
Four Months Post-Insertion into the Live Rabbit’s Capsule
- Soft-Bag と SML を生体の兎に挿入、4 ヶ月に生体顕微鏡で 観察し、水晶体膜は透明で後発白内障の発生はなかった。
- 水晶体膜赤道部の癒着と膜の硬化が防止されていると考えら れた。
Soft-Bag と SML の成果のまとめ
- 1動物を使った実験で、Soft-Bag と SML は 3.0 mm切開から水晶体膜に安全容易に挿入され連結される ことを確かめた。
- 2生体の兎を使った実験で、Soft-Bag・SML 連結体は、水晶体膜の癒着と膜の硬化を防止すると考え られた。
< Soft-Bag と SML の今後のスケジュール >
- ・今後、インドにおいて、非臨床試験とそれに続く SANKARA 病院での臨床評価を行う。
老眼矯正の今ある課題 (パート2)
シリコンオイルの移動で光学部が形状変化する調節眼内レンズ
- 単焦点レンズの前後移動では焦点調節力に限界があることから、より大きな調節力が期待できるレンズの形状 を変化させる調節眼内レンズが開発されている。
- 上記イラストは、CE マーク取得のための臨床試験中の調節眼内レンズで、焦点調節による水晶体膜赤道部の 動きを受けてチューブの外壁が動いて、チューブから光学部へシリコンオイルが移動して光学部の形状が変化 する。
- この眼内レンズは、動物実験~臨床試験中に 4 度の製品サイズの縮小化 (切開サイズは 4.5 ㎜→3.5 ㎜)を行っ ている。
- この眼内レンズ光学部が変形するには、眼内レンズのサイズが大きく、チューブの外壁と水晶体膜赤道部が常 に緊張をもって接している必要があると考えられる。しかし、この眼内レンズはサイズを小さくしようとして おり、小さくすると水晶体膜赤道部との接触が緩くなり、チューブの外壁の形状変化を起こさせなくなると考 えている。
光学部が形状変化する調節眼内レンズ
- 上記イラストは、米国で臨床試験中の調節眼内レンズで、1.5D の調節力があったと報告されている。
- 水晶体膜を拡張するフレーム部とその中で形状変化するシリコンオイルの入った液体レンズ部の 2 つの パーツがあり、両者を別々に挿入して水晶体膜の中で連結させる。
- この眼内レンズは 3 種類のサイズから1つを選択して水晶体膜と緊張をもって接しようとしているが、垂直 方向のバネ力をもっておらず、焦点調節時 (近方視時)、チン小帯と水晶体膜赤道部がフレーム部を押すこと
- で液体レンズが変形する構造である。チン小帯は引っぱるだけで押せないので、この IOL は水晶体膜の中 で動くことは難しいと考えられる。
我々が提案する解決策(パート 2)
Soft-Bag と Active -move Lens による解決
- 我々は、Simple-move Lens (SML)より大きな焦点調節力が期待できるActive-move Lens (AML)を開発する。
- AMLに用いるSoft-Bagは、SMLの時と同様の構造体であるが、後方リングに症例に合わせた度数の凸レンズ を持つ。
- AMLは、可動レンズ部と、スプリングフレーム部より構成される。可動レンズ部は、2枚のシリコーン製可 動円盤の中にシリコーンゲルが閉じ込められている光学部に複数のコの字状支持部が接続する。スプリング フレーム部はシリコーン製で、2つのリングの間に複数のC字状の支持部が接続する。
- フレーム部はシリコーン製で、2つのリングの間に複数のC字状の支持部が接続する。
Soft-Bag と Active -move Lens の焦点調節時の動き
- Soft-BagとAMLの焦点調節は、調節による水晶体膜の変化をSoft-Bagを通してAMLが受けて、AML光 学部の表面形状 (表面曲率)を変化させて行う。
- AML可動レンズ部の構造解析では、2gfの力をかけたとき光学部の曲率半径は15㎜から7.5㎜に変化して おり、約20Dの焦点調節力を示す。
Active-move Lens の成果
可動レンズ部の製作と可動性検証
- Simple-move Lens (AML)の可動レンズ部を作製した。
- この可動レンズは、厚み 0.2 ㎜の比較的厚いシリコーン製可動円盤の中にシリコーンゲルが閉じ込められ ており、膜が破れて液体が漏れるリスクがない安全で耐久性のあるレンズとなる。
- 治具で可動レンズ部の直径を 9 ㎜から 8.6 ㎜に縮めた時、表面形状が黒から赤のラインに変化し、18.6D の屈折力の変化を示していた。
Soft-Bag と AML の成果のまとめ
- ・AML の可動レンズ部を作製し、直径を 0.4 mm縮めた時、18.6D の屈折力の変化を示すことを確認した。
Soft-Bag と AML の今後のスケジュール
・今後、可動レンズの最適化を行う。また、AML用の Soft-Bag とスプリングフレーム部の作製と最適化
を行う。
そして、宮崎大学での動物実験で最適化した Soft-Bag と AML の機能性と安全性を検証する。
想定スケジュール
事業化イメージ
市場規模、社会・経済へのインパクト
- 我々の開発する調節眼内レンズは2通りの使われ方があり、一つは白内障手術としてもう一つは老視矯正手術とし てである。
-
白内障手術時の眼内レンズの市場は、年間日本で180 万枚、米国で560 万枚、世界で3,000 万枚以上使用されてお
り、4,000 億円以上の市場があるとされている。しかし、一般の眼内レンズには老視の矯正効果はなく、高率に発生
する後発白内障の合併症がある。
Simple-move Lens(SML)は、完全な後発白内障防止機能とマイルドな焦点調節能力が見込まれる。付加価値レンズと して世界で使用される全眼内レンズの 20%に使用されると思われる。このレンズの価格を一枚5万円とすると全世 界で600万枚使用され、3,000 億円の売り上げとなる。 - Active-move Lens(AML)は、白内障手術時に老視も治癒させることのできるプレミアムレンズとして、先進国を中心 に白内障手術の10%程度に使用されると思われる。このレンズの価格を1枚20 万円とすると、先進国を中心に年間 100 万件程度に使用され、2,000億円の売り上げとなる。
- 一方、老視矯正手術として使用することを考える時、市場は今後おおいに開拓されることが期待される市場であ る。現在、老視矯正術としては、多焦点眼内レンズを挿入する手術が一般に行われているが、角膜内ピンホールレン ズ(角膜インレー)挿入術や老視矯正レーシックなどが近年手術数を増やしている。しかし、これらの手術は、目に 入る光を制限したり分散させるため、術後の見え方が不自然であったりコントラスト感度低下などの副作用がおこっ たりして必ずしも十分な患者の満足を得ていない。
- 我々が開発するSMLやAMLは、理論的により安全で副作用の少ない老視矯正が行なえる。全世界の老視人口(約 20億人)の 200 人に 1 人(先進国の比較的裕福な人を想定)が老視矯正としてのSMLまたはAML挿入術を受けると仮 定し、それぞれ年間500 万人(1000 万枚)ずつに使用されると2兆5000億円の売り上げとなる。
- このように、焦点調節力のある眼内レンズの実現は、経済的にも莫大なインパクトがあるが、それだけでなく、 世界の先進国はどこも高齢化社会を向かえる中で、老視を治療させ若い時の見え方を回復させることは、新聞や パソコンや携帯などの近くの小さな文字から、道路標識やテレビ画面やスクリーンなどの遠方の小さな文字までを メガネなしでスムーズに読めるようにし、 高齢者の交通事故を減らし、齢をとっても活力を失わないで趣味や 仕事に打ち込める豊かな人生・豊かな社会の実現に多大な貢献をするものである。
学会発表
- 2018年4月、日本眼科学会総会の国際シンポジウムでSimple-move Lensの開発について飽浦が発表。 この発表は、学会総会長のイチ押し演題として学会新聞にプレリリースされた。